11月7日に初会合が行われた消防庁の「有所診療所火災対策検討部会」の様子を九州のRKB毎日放送が報じています。
その中で、有床診療所連絡協議会・葉梨之紀会長が委員として参加し、以下の様に有床診療所が置かれている現状を説明しています。
「3割の施設が赤字で、ぎりぎりの経営状況で続けているところが多く、十分な防火設備が整っていないところが多い」
「補助金がつかないままで、『これ(スプリンクラー)を付けなければ、そこの運営はできないよ』って言ったら、入院をやめた方がみんな楽なんです。 法制化だけで、締め上げるっていうだけになりましたら、ほどんどのところは、無床化しちゃうと思いますね」
全国有床診療所連絡協議会は10月21日付で全国の加盟する3259施設を対象に「防火安全体制に関する緊急アンケート」を実施し、回答が届いた803施設分を集計しました。もちろん当院も回答した1施設です。
このうち、スプリンクラーを設置しているのはわずか45施設(6%)のみで、758施設(94%)が未設置のようです。
現在、有床診療所は延床面積6000平方メートル未満であればスプリンクラーの設置義務はなく、6000平方メートル以上もある巨大な有床診療所となると、元々病院であったところが規模を縮小した場合しか考えられません。ちなみに有床診療所としては最大限の19床の入院ベッドを有している当院の延床面積はわずか1140.22平方メートルです。つまり、当院の5.2倍以上の巨大な有床診でなければスプリンクラーの設置は必要ないのです。
その上、有床診療所の3割が赤字経営を余儀なくされている厳しい現状において、設置したくても報酬上評価されないスプリンクラー設置に数千万円も払えるところなどほとんど存在しないと思います。
このアンケートの中に
スプリンクラー未設置の有床診療所への設問として、
設問:今後、有床診療所にスプリンクラー設置が義務付けられた場合どう対応されるか?
A.「設置する」
B.「補助金等支援があれば設置する」
C.「病床の廃止を検討する」
のいずれかを選ぶ3択がありました。
その集計結果によると
スプリンクラーの設置が義務化された場合、
A.「設置する」と答えたのは101施設(13%)
B.「補助金などの支援があれば設置する」と答えたのは435施設(57%)
C.「病床の廃止を検討する」と答えたのは188施設(25%)
つまり
自力でスプリンクラーを設置できる有床診療所(A)は13%しか存在せず
82%の有床診療所(B+C)はスプリンクラー設置の義務化により病床閉鎖の可能性があるのです。
また、4分の1の有床診療所(C)は、補助金などの支援があってもスプリンクラーは設置せず病床閉鎖を検討するという結果なのです。
当然でしょう。
当院はまだ建て直して日が浅く、改修で済みますが、
老朽化が激しい、火災を起こしたような有床診療所では、スプリンクラー設置だけでは安全体制が確保できず、有床診全ての建替えが必要です。
しかし、現状の安すぎる有床診入院基本料では数億円もの有床診建替え費用は決して捻出出来ません。
当院は、スプリンクラーの自力での設置を検討したのですが、後付けとなるとスプリンクラー設置は割高で、数千万円の費用がかかることが判明しており、その上、防災対策をしっかり講じるためには1千万円以上する自家発電装置も必要な為、B.「補助金等支援があれば設置する」を選択しるしかありませんでした。
福岡の火災を見て、私はスプリンクラーの設置義務化は有床診療所の安全確保の為には避けられないものと覚悟しています。
死者を出したくありませんし、私も焼け死にたくはありませんので、設置出来るものならぜひ設置したいです。
しかし、経営が成り立たなくてはどうしようもありません。
有床診療所安全体制の問題はスプリンクラー設置費用の捻出だけでは解決されないのです。
抜本的対策を講じる為に、「有所診療所火災対策検討部会」は、安すぎる有床診入院基本料の問題にまで切り込む必要があるのです。
昨日、田辺保健所から、「病院における防火・防災対策要綱の周知徹底及び防火・防災対策の再点検について」という書類が届きました。
厚生労働省医政局長からの通知に基づくもので、11月8日までに至急点検を行い、点検結果を「防火・防災対策点検表」に記入し保健所に提出する様との事。
点検項目を確認すると、
項目7.「患者・付添人への教育」:
パンフレット等により火災の対応策を周知しているか。
という項目がありました。
当院では火災編と地震・津波編の防災マニュアルを作成し、徐々に改訂を重ねていますが、これらはスタッフ用。
「避難経路図」を院内に掲示してはいるものの、「入院患者への周知」用のマニュアルは作成されていませんでした。
そこで、早速作成し、以下の様になりました。
「災害発生時の入院患者様へのお願い」
① 各階通路に避難経路図を掲示しております。
② 入院時に必ず非常口・非常階段をご確認下さい。
③ 当院は両端と中央の3カ所に非常階段が設置されております。
④ 全ての非常階段から地上及び屋上への避難が可能です。
⑤ 火災発生時には煙感知式の自動火災報知設備により、非常ベル・サイレンが鳴ります。
⑥ 動ける方は、スタッフの避難誘導指示に従い、落ち着いて避難して下さい。
⑦ 決して単独行動はなさらないで下さい。
⑧ 入院時に履いてきた靴を身近に保管し、靴を履いて避難下さい。
⑨ 避難する時は、屋内ではスリッパを履かないで下さい。
⑩ 速やかに貴重品のみを身に着けて避難下さい。
⑪ 危険ですから、避難した後は、火災現場に決して戻らないで下さい。
⑫ 煙を吸い込まない様に、濡れタオルやハンカチ等で口や鼻を塞いで下さい。
⑬ 火煙が迫る時は、這うように姿勢を低くすると、見通しが良くなります。
⑭ 天井の避難誘導灯は避難すべき非常口(火災発生区画と反対方向)に向けて点滅します。
⑮ 非常階段への煙の流入を防ぐ為、防火扉が自動的に閉鎖されます。
⑯ 防火扉は閉まっていても、押せば簡単に開き、避難できます。
⑰ 屋外への非常口は火災発生時、自動的に開錠されます。
⑱ 閉じ込められる恐れがありますので、エレベーターは絶対に使用しないで下さい。
⑲ エレベーターに搭乗中の場合は、速やかに最寄りの階で降りて下さい
⑳ エレベーターは災害時、最寄りの階に自動停止し、ドアが開きます。
㉑ エレベーター内に閉じ込められた場合は、非常通話ボタンを押し続けて下さい。
㉒ エレベーターのドアは手で開けられません、救助まで冷静にお待ち下さい。
㉓ 避難場所は当院専用駐車場となっておりますが、誘導に従って下さい。
㉔ ナースステーションに設置している自動火災通報装置のボタンを押すと、録音音声により、自動的に消防署に通報されます。
㉕ 当院院内・敷地内での喫煙・火器の使用はお断り致します。
㉖ 火災発見時には大きな声やナースコールで同室者及びスタッフにお知らせ下さい。
㉗ 重症の患者様はスタッフが搬送致しますので、慌てずにお待ち下さい。
㉘ 津波の恐れがある場合は当院屋上へ避難誘導致します。
㉙ 津波時の当院屋上避難は、消防訓練時に田辺消防と協議の上、決定したものです。
※㉔の自動火災通報装置は施行業者に発注済ですが、現時点ではまだ設置されていません。
早速、病棟2か所の「避難経路図」の横に掲示し、入院患者様にも配布致しました。
今後、新規入院患者様にも同マニュアルを配布し、災害発生時対応の周知を徹底致します。
また、
スプリンクラーや自家発電等の設置も検討し、
「防災対策の更なる推進」
を目指します。