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有床診療所の危機的状況を「県医報」で訴えさせて頂きます。

_2013.10.04

先の和歌山県医師会移動懇談会で、私の有床診の問題を取り上げて下さった田辺市医師会会長・坂口幸作先生が、和歌山県医師会の会報である「県医報」に、同内容を投稿する機会を与えて下さった。

坂口先生にはいつもいつも、心より感謝です。

 

以下投稿内容を転記

 

「介護施設はおろかビジネスホテルやネットカフェよりも安い入院基本料・・・やはり、有所診療所は20年後、消滅するしか無いのでしょうか?」

田辺市医師会

辻 興

 

日本独自の医療文化である有床診療所は1948年に施行された医師法第一条により設置され、今日まで地域医療における長い歴史を有しています。平成23年度日本医師会「有床診療所に関する検討委員会」答申書によると有床診療所は現在、小規模入院医療施設として病院や介護施設とは異なる5つの重要な機能、①「病院からの早期退院患者の在宅・介護施設への受け渡し機能」②「専門医療を担って病院の役割を補完する機能」③「緊急時に対応する医療機能」④「在宅医療の拠点としての機能」⑤「終末期医療を担う機能」を担っています。また、2025年完成を目指す地域包括ケアシステムでは拠点としての役割、地域の診療所や介護施設と病院とをつなぐ中心的役割が期待されています。

しかし、長らく続く大病院(中小病院ではありません)や介護施設優遇の医療福祉政策によって、有床診療所は国会議員には有償診療所と勘違いされ、官僚には役割を理解されず重要施策から外されて、人命を担うにも関わらず、介護施設はおろかビジネスホテルよりも安い入院基本料が設定され、有床診療所の多くのが経営難に陥り、後継者は途絶え、この20年間で6割が閉鎖に追い込まれました。田村憲久厚生労働大臣は地域医療における有床診療所機能の重要性を平成25年度全国有床診療所連絡協議会総会で認めています。しかし、国の評価は口だけで、診療報酬において未だ正当な評価はなされず、病院と同様、人命を扱うにも関わらず、入院費は病院の3分の1しか請求出来ず、入院中の食事なども考えるとビジネスホテルの1泊よりずっと安く、介護施設をも下回る激安の有床診療所入院基本料が放置されています。病床が満床でも赤字となる理不尽な状況が延々と続いています。人員配置に見合った診療報酬上の評価も極めて低く、病院の10:1や7:1を上回る手厚い看護体制をとっていても有床診入院基本料はそれぞれ2分の1、5分の2程度です。多くの有床診療所では外来診療や併設する介護事業での利益を病床運営費に充て、辛うじて存続してきたものの、設備は老朽化し、相続税も入院設備の為高く付き、夜勤看護職員の確保も困難となり、働いても割の合わない有床診療所運営を嫌い後継予定者は去り、無床診療所より20歳以上高齢化が進む有床診療所院長の歳が時限爆弾となって(平成23年度有床診療所の現状調査によると、有床診療所の院長の年齢は60歳以上が61.5%を占め、厚生労働省調査における、無床診療所と合わせた診療所全体の院長の年齢60歳以上が40.4%であるのと比較し、20%も高齢化が先行しています)病床は次々と閉鎖に追い込まれています。有床診療所は今正に存亡の危機に直面しており、もはや「待った無し」の深刻な状況です。人命を扱い、特養や老健といった介護施設で断られた患者様を引き受けて地域医療の穴を埋めている有床診療所の入院基本料が、これら介護施設の報酬に遥かに及ばないのは極めて理不尽であり、この現実を把握しながら、いつまでも放置している厚労省の冷酷な態度は抗議に値します。少なくとも介護施設報酬の最高額まで人命を扱う有床診療所入院基本料を直ちに引き上げ、入院機能だけで有床診療所の病床維持が可能となる様に入院基本料を設定し直すべきです。

 

主に有床診療所の機能⑤:終末期医療を担う私の有床診療所では、地域の高齢化により、ここ数年は週に約1名のペースで入院による看取りを担ってきました。人口動態調査によると、2010年の診療所での入院看取り件数は28869件で、全体の2.4%を担っています。しかし日医総研による有床診療所の経営状況の分析では、終末期の患者を抱えていない有床診の経常利益率が4.8%なのに対し、3人以上終末期の患者を抱える有床診ではマイナス0.4%と悪化しており、より医療負担の重い終末期の患者を抱えるほど有床診の経営状態は悪化するという大きな矛盾が生じています。ちなみにベッドを閉じてデイサービスなどの介護サービスを行うと無床診療所よりも経営が良くなるという皮肉なデータも存在します。看取りには極めて多くの人手と手間を要し、重い精神的負担と時間的拘束を伴いますが、診療報酬上の評価は極めて低く、家族への精神的ケアも診療報酬上全く評価されず、看取りを担うと原価を割ってしまうのが実情で、厚生労働省もその現実を把握はしているようです。それにも関わらず酷い有床診入院基本料をそのまま放置し、非現実的な看取り加算でお茶を濁す医療行政に対し、やはり現場の声に耳を傾けず、理解もしていないとの絶望感と、本気で救済する気など無いのだとの強い憤りを感じます。

有床診終末期医療の問題点は、まず2012年に新設された看取り加算が一人につき1万円(在宅療養支援診療所で2万円)と余りにも安い上に、入院後30日以内に患者様が亡くならないと評価されない点が挙げられます。「医療費がかさむので、終末期の患者は30日以内に処分しろ」と国は考えているのでしょうか。決着が早い癌最終末期の看取りのみを選択して入院させない限り、人道的には30日以内に決着はつけられません。当然、看取り加算も請求できません。国は「有床診の看取り機能を看取り加算で評価している」と言い切っておりますが、「30日以内」との規制を添えて「絵に描いた餅」となっている事実と、安い加算料金について厚労省は決して口にせず、常に黙っています。国は有床診の看取りを未だにちゃんと評価していないのです。実は看取り加算より深刻な問題があります。7人以上の看護職員を配置して終末期の看取りを担っても、元から一泊7710円と激安の有床診療所入院基本料が、入院後14日を過ぎると追い打ちをかけるように大幅に漸減されるのです。7人以上もの看護師を配置しても入院後31日を過ぎると24時間の看護サービス込みで一泊5110円。患者の病状が極めて不安定となる終末期には有床診入院基本料は一回の往診料程度にまで減額されるのです。このような値段で看取りまで含めた医療を受け宿泊できる施設は日本の有床診しかありません。同等の行き届いたサービスを提供するホテルなら1万円は下らないところです。入院期間が長くなると医療負担が軽くなると考えるのは、急性期患者のキュア(Cure)を担う救急病院の発想であり、終末期患者のケア(Care)を担う有床診療所の看取りにおいては全く当てはまりません。終末期には入院期間が長くなるにつれ病状が進行し、医療の負担が増し、看取りが近づくと常時呼び出され、連日、24時間はり付けの刑に処せられますが、この24時間待機に対する診療報酬上の評価は全くありません。無報酬の医療負担の極めて重い日々が延々と続くのです。つまり、入院期間が長くなり看取りが近づくにつれて医療負担は増し、有床診療所の入院基本料も本来増額されて然るべきものなのです。でも、現実は極めて冷酷です。私には幼い子供が2人いますが、終末期の患者様を常時抱えている現状では、家族サービスは年1~2回、1泊の家族旅行をするのがやっとで、週末も、呼ばれてすぐに戻れる近隣にしか出かけられません。常時拘束され、責任も重く、過重労働を強いられ、儲かりもせず、子育てに支障も生じています。にもかかわらず国には無視され、そのような冷遇される有床診療所を、ただ使命感と自己満足だけで継承しようとする者など今時居ないことを、私は十分に理解できます。私自身は父の熱意に負けて継承しましたが、親としての私は、やはり理不尽な現状が解決されない限り、苦労ばかりの有床診療所を、我が子には決して継承させたくないと思います。看取りの現実を知らない医療行政に見切りを付けて、全ての有床診療所が看取りをやめてしまう前に、まず、早急に看取り加算の入院後日数制限を廃止し、入院日数に伴う有床診入院基本料の漸減制度を廃止し、入院日数にあわせて増額する必要があるのです。

 

全く知られていませんが、和歌山県は近畿で最も有床診療所への依存度が高い県です。厚生労働省の平成22年医療施設調査によると人口10万人あたりの有床診療所数は近畿2府4県の中で和歌山県は13.2施設とトップであり、2位の京都府の倍以上に当たります。二次医療圏別でみても和歌山県の人口10万人当たりの有床診療所数は橋本二次医療圏以外で10施設以上あり、全国平均の8.3施設を大きく上回っており、新宮二次医療圏においては最多の27施設もあります。和歌山県の地域医療がいかに有床診療所に依存しているかがお分かり頂けると思います。

それにも関わらず、県医師会がご提供下さった平成25年8月末時点での県内有床診療所のデータをみると、和歌山県内の有床診療所数は123件で、病床稼働中は64件(52.0%)、病床休床中は59件(48.0%)でした。つまり、県内に現存する有床診療所の約半数はすでに休床に追い込まれているのです。

私の父が関わって、平成5年に田辺市医師会館で産声を上げ、翌平成6年、90名の会員で設立した和歌山県有床診療所協議会も、平成25年夏には50名を割り激減しています。その中には病床が稼働していない会員や、すでに病床を閉鎖、もしくは病床閉鎖予定の会員も多数在籍し、この20年足らずで和歌山県の有床診療所も半分以下に減少したものと考えられます。和歌山県有床診療所協議会発足に奔走下さった主要メンバーですら、その多くが後継者を擁立できず無床化に追い込まれている過酷な現状です。ちなみに和歌山県有床診療所協議会の現行役員ですら、3割がすでに病床を閉鎖、もしくは閉鎖予定です。このままでは今後20年を待たずに和歌山県から有床診療所は絶滅するでしょう。

 

全国42道府県に有床診療所協議会が存在し、そのほとんどが都道府県医師会に事務局を設置する中、和歌山県有床診療所協議会は発足以来、事務局を会長の診療所に設置し、事務処理で会長の診療所職員に極めて大きな負担を掛けてきました。医師会内に事務局を設置していないのは富山県と三重県、沖縄県と和歌山県の4県に過ぎません。「県病院協会が県医師会と独立しているから有床診も」というのが、和歌山県医師会が内部に和歌山県有床診療所協議会を設置しない理由とお聞きしていますが、和歌山県と同じ状況にある他県のほとんどが、県医師会内に有床診療所協議会を設置しており、和歌山県医師会だけが何故、病院協会を引き合いに出してまで拒否したのか理解に苦しみます。平成25年9月に田辺市で開催された県医師会移動懇話会の席で、県外科医会や県内科医会といった分科会が名目上県医師会内に設置されてはいるものの、実際には会長宅が事務局となっているとの事で、名目上は県医師会内に設置しても、和歌山県有床診療所協議会の事務所機能は県医師会では行えないとの回答を頂きました。しかしタイプも規模も全く異なるこれらの分科会と比較される理由は、私にはよく理解出来ません。意固地な医療政策により、施設数が激減し、疲弊しきってしまった今、残存する有床診を存続させるには県医師会の積極的な援助が不可欠なのです。県医師会内に有床診療所協議会を設置しない現状では県医師会による県内有床診療所の危機的現状の把握は困難であり、事務局が個人医院ベースでは県医師会のネットワークが有効利用できず活動に限界があります。どれだけの有床診療所が新たに閉鎖し、もしくは休床に追い込まれているのか、稼働する有床診の現状はどうか等、把握が困難なのです。

 

有床診だけでなく個人病院にも当てはまるようですが、相続税の問題は深刻です。中小企業の株式等に対する相続税・贈与税の納税猶予制度、つまり、「後継者が先代経営者から相続・贈与により非上場株式を取得した場合に、その80%分、贈与では100%分の納税を猶予され、5年以降も株式を保有し、事業を継続すれば、後継者死亡、または会社倒産時点で納税免除される」といった納税猶予制度が「持分あり医療法人」の相続・医業継承の時設けられておらず、無床診療所と比較して施設や設備が大掛かりとなる有床診療所において、この承継税制の問題は喫緊に解決すべき最重要課題です。平成24年3月の日本医師会 医療税制検討委員会答申において、持分あり医療法人に対する課税のあり方への提言として、「持分あり医療法人の永続性を可能にするため、事業継承対策として、他の中小企業と同様の課税特例の適応を認める必要がある」とされており、日本医師会の税制改正要望にもこの点が明記されているようですが、早急な解決は、日本医師会の積極的活動にかかっています。

 

これまで何年も有床診療所連絡協議会が理不尽な状況を国に訴えてきたにも関わらず、無視され続け、絶滅寸前まで有床診が放置されてきた経緯をみると、日本医師会長が本気で有床診を救う気にならない限り、そして、日本医師会が優先して有床診の問題解決を厚労省に働き掛けない限り、国は本心では有床診療所を消滅させるつもりだと私は推測しています。もはや時間的猶予はありません。県医師会の有床診療所への最大限のご支援を心よりお願い申し上げます。また、各地で孤軍奮闘している有床診の皆様、どうか一致団結して酷い現状を訴え、和歌山県有床診療所協議会活動への積極的な参加をお願い申し上げます。

 

最後に、この文章作成にあたり引用したデータの提供元であり、常に有床診を温かく見守って下さる日医総研主席研究員の江口成美先生、和歌山県有床診療所協議会において、未熟な私に有床診療所のエッセンスを惜しみなく注いで下さる、師匠、青木敏初代会長、国会議員に有床診の大切さを積極的に訴え、現、有床診療所協議会を全力で支えて下さる奥篤会長、そしてこの度、有床診の危機的状況を御理解下さり、県医師会と話し合う貴重な機会を与えて下さった坂口幸作田辺市医師会長に心よりお礼申し上げます。

 

 

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